著作権法改正への道
憲法と同じように日本の著作権法にも改憲論者と護憲論者がいるのをご存じだろうか?
このように2つに分かれるのは好みの問題とか、変化に対する単純な抵抗感とかは別にすると、世の中の変化をどの視点から捉えているか、そのなかで守りたいものは何なのか等の理由でそのスタンスが変わることが多いといわれている。
また護憲論者を支えているもう一つの拠り所は、1899年という比較的早い時期にベルヌ条約に加盟し(この背景事情は紹介済)、1970年に現行の著作権法が確立して以来、必要に応じて「改正」を繰り返して(その出来はともかく)対応してきたという実績だろう。
しかし現時点でさえ少なくともプログラムの権利に関しては決して「完璧に整備されている状態」とはいえず、今後その状況はさらに厳しいものになるのではないだろうか?
というのは、これまで40年以上にわたりコンピュータ業界を見てきたが、今やほぼ全ての産業で様々な形でIT化が進み、特にモバイルを中心にイノベーションが加速化している。 そして今後はその流れが徐々に人工知能(AI)をプラットフォームとした社会環境に進化し、徐々に市民の間にも浸透してくることはもはや既定路線、その際にはこれまで想定してなかったことが起きることを具体的に予測することが重要だろう。
著作権法に関していえば、2000年あたりからオープンソースが一般に普及してきておりそれを踏まえて今回の投稿につながっているが、今後はビックデータ、IOTを流れるデータ、デジタルマーケティングが扱う情報、更に人工知能(AI)による創作物の権利関係などをあらかじめ明確にする必要がある。
卑近な例を挙げると囲碁の世界チャンピョンを破ったディープラーニング(AIの一種で機械学習)はコンピュータが自動で学習して自動で物事を認識する時代になっている。 この技術を利用すると、これまでの世の中の全てのヒット曲を学習させてAIに新しいヒット曲を生み出させたり、例えば「ピカソやモネが生き続けたら書いたであろう絵画の展示会」等が開催されるのはもはや時間の問題であろう。
その場合、著作権者はAIのシステム(プログラムを含む)なのか、AIの開発者か、それともAIに与えたデータになるのか?
更にそのAIのプログラムがオープンソース化されることもあるだろう。 このような場合の法的担保も必要となるだろう。
そしてこれらは著作権法だけの問題ではなく知的財産権全体にも影響を与える。 しかし「オープンソースを使おう②」でも紹介したように残念ながら日本ではこの分野も縦割りになっているのだ。
実は縦割りの行政庁(管轄)
両省庁ともわかりやすい説明をしてくれているが、これらの主幹行政庁(管轄)は以下のようにわかれているのだ。
①特許権、実用新案権、意匠権、商標権:特許庁
http://www.jpo.go.jp/indexj.htm
②著作権:文化庁
http://www.bunka.go.jp/chosakuken/index.html
③半導体回路配置利用権:一般 財団法人ソフトウェア情報センター(以下、SOFTIC)
http://www.softic.or.jp/
④育成者権(種苗法):農水省
http://www.hinsyu.maff.go.jp/
⑤不正競争防止法関連:経産省
http://www.meti.go.jp/policy/economy/chizai/chiteki/index.html
⑥商号登記:法務省
http://www.moj.go.jp/MINJI/
主旨からいってこうなるのは分からんでもないが、それにしてもあまりに縦割りの組織になっている。
しかも著作権を所掌している文化庁(文部科学省の外局)と特許庁(経産省の外局)では同じ知的財産全体の体系を現した図がホームページでは全く異なる絵を掲載している。 この程度の体系図ぐらいは共有すべきではないだろうか?
その図を簡単にさらいした後、「オープンソースを使おう②」でお約束していた全体戦略を統括している内閣の知的財産戦略本部の最新の報告を紹介する。
各省庁の説明
文化庁
文化庁では、「知的財産権」とは,知的な創作活動によって何かを創り出した人に対して付与される,「他人に無断で利用されない」権利で以下のようなものが含まれるとしている。
意外とあっさりしている分、わかりやすいともいえるが、ここだけ解像度も粗く、いかにもどっかからコピペしてきたものを張り付けているようにも見えみえるのが少々気にならないだろうか?
特許庁(経産省)
特許庁では、「知的財産権には、特許権や著作権などの創作意欲の促進を目的とした「知的創造物についての権利」と、商標権や商号などの使用者の信用維持を目的とした「営業上の標識についての権利」に大別されます」としてビジネスを意識した説明になっている。
さらに特許権、商標権のように書面による申請をすることにより排他的に支配できる「絶対的独占権」と、創作した時点で権利が得られる著作権のように他人が独自に創作したものには及ばない「相対的独占権」とを区別しておりやや法律を意識した説明になっている。
統括組織は「知的財産戦略本部」
これらの縦割り行政を束ねるのが2003年に成立した「知的財産基本法」に基づき内閣として発足したのが「知的財産推進本部」だ。
内閣なので本部長は内閣総理大臣、毎年行政庁のトップとしてこの国の知的財産戦略計画を策定し、毎年報告している。(http://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/)
今年も「知的財産推進計画2016」が5月に提出されたが、いまだにフェアユース(*1)の導入すら実現できていない日本の割には(というと失礼か?)これまでになく将来の産業発展のために前向きな提案となっている。
本計画書は以下のサイトからダウンロードできるが主なトピックを簡単に説明しておく。
なお、途中掲載している図は知的財産戦略本部にあるドキュメントから引用している。
[wpdm_package id=’2123′]
「知的財産推進計画2016」
1、潮流
・第四次産業革命の進展と超スマート社会(Society 5.0)への展望
・経済のグローバル化の進展
2、コンセプト
・「知的財産」の射程拡大
・「つながり」「かけあわせ」による「オープンイノベーション」 + 「オープン&クローズ戦略」を軸にした「知財マネジメント」の精緻化
・イノベーション創出への「挑戦者」の応援を基本とした制度づくり・人づくり
3、主なトピック
(1)デジタルネットワーク時代の著作権システムの構築
・著作物を利用する際には事前許諾を得ることが原則であるが、大量の情報を集積、利活用する場合などに個別の事前許諾だけでは対応できないと考えられる。
・著作物を含む情報の量的拡大と情報の利活用方法の多様化という変化に対応し、新たなイノベーションの促進に向けて、知財の保護と利用のバランスに留意しつつ、城南な解決が図られるグラデーションのある取り組みが必要。
(2)人工知能(AI)によって生み出される創作物と知財制度
・今後、人工知能によって、人間による創作物と見分けのつかない情報(AI創作物)が爆発的に生み出される可能性がある。
・そのため、AI創作物に対する保母の可能性・必要性など、AI創作物の出現に対する知財システムの在り方について検討が必要。
(3)国境を超える知財侵害への対応
・インタネット上での知財侵害行為は、海外に設定されたサーバーを利用するなど、より巧妙化、複雑化、営利目的化しているため、これら国境を超える悪質な侵害行為に対し、諸外国の例も参考に、より一層の対応強化が必要。
図 リーチサイトとサイトブロッキング
この報告書が発表された後、主な検討メンバーでパネルディスカッションが行われた。
そこでも護憲派、改憲派の間で白熱した議論が交わされ久しぶりに面白い議論を観戦でした(笑)
以上、著作権に関する話が少し長くなったが、次回からオープンソースの話に移っていきたい(続く)
(*1)フェアユースとは
(この規定がないため日本ではYoutubeの映像を全て見ることができない!)
Youtubeのサイトの著作権センターの下の「フェアユース」というリンクからたどってみると
「フェアユースとは、一定の条件を満たしていれば、著作権所有者から許可を得なくても、著作物を再利用できることを示した法原理」
で、米国著作権法107条で指針を示し、あとは個別案件で検討してね、という発想だ。
107条では、著作物の利用がフェアユースに当たるか否かについて、少なくとも下記4要件を考慮して判断されるとしている。
1. 利用の目的と性格(利用が商業性を有するか、非営利の教育目的かという点も含む)
2. 著作権のある著作物の性質
3. 著作物全体との関係における利用された部分の量及び重要性
4. 著作物の潜在的利用又は価値に対する利用の及ぼす影響
今後、予期しない様々な知財権に関する課題が出てくることを想定すると日本でもフェアユースの考え方を導入すべきだろう。
ちなみに他国でフェアユースを何らかの形で取り込んでいる代表的な国はイギリス、香港、オーストラリア、ニュージーランド、シンガポール、イスラエル、台湾、フィリピン、韓国、中国、EU(Copyright Code)などである。
2016年8月21日